皆さんは日常で訪れるお店や施設に置かれる家具に注目したことはあるでしょうか。
最近、いつも立ち寄るお店の隅に置かれていた椅子が、当社にある椅子と同じだったという発見がありました。このブログを読んでいる方々も、ふとしたときに家具などに目を向けてみるともしかしたら同じような発見があるかもしれません。
前回紹介したソファと椅子はサイズが大きく、デザインも個性的なものでした。それらは広いロビーや有名なホテルのラウンジに置かれているようなイメージです。今回は趣向を変え、私たちの生活にもなじむ実用的で洗練された北欧デザインを代表するデザイナーの椅子を2つ紹介します。
CH33
(1957年 カールハンセン&サン)
デンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーの名作
1957年から1967年の10年間、カールハンセン&サンのために生産された
2012年に同社にて50年ぶりに復刻し再生産された
ウェグナーは「デニッシュモダン」というスタイルを牽引した家具デザイナーです。デニッシュモダンというのは1940年から1960年代にデンマークで起こったミニマリズム運動。シンプルながら美と機能性を追求したスタイルのことを言います。
ウェグナーがデザインしたデニッシュモダンを代表する作品のひとつに、このCH33があります。廃盤になってから復刻するまでは、ヴィンテージとして流通していました。当社に置かれているCH33はヴィンテージのもの。ヨーロッパにある家具会社から購入し、もともと布生地だった座面を革に張り替えました。
デザインは機能的で安定感があり、とてもシンプルです。ゆるやかな曲線を描く背もたれは長く座っていても背中が痛くならず、程よく背中を包み込むようにフィットします。背もたれから足元までつなぐ後ろ脚は末広がりで、身を預けても後ろに傾くことなく安心して腰掛けられます。
CH33には肘置きがありません。肘置きがない椅子は机の下などに収納する際に邪魔にならず、スッキリと仕舞えるという利点があります。
しかし時には肘置きがほしいという方もいるかと思います。これは私の座った感想ですが、その点CH33は体勢を崩し力を抜いて背もたれに肘を置くとちょうどいいんです。絶妙なカーブのおかげでしょうか。一息つくにはちょうどいい高さ、腕を乗せても疲れないちょうどいい位置。もしかしたらそれも計算してデザインされているのかもしれません。
そして浮いているように見える座面もCH33の特徴です。座面は硬くなく、しっかりとした弾力・クッション性があります。座面が広いので端に手を置いて体重移動するのも楽です。長時間座ることが考慮されていますね。機能性と美しさだけでなく実用性も兼ねているのがCH33です。
ハンス・J・ウェグナー
デンマークのトナーで生まれる。17歳という若さで木工マイスターの資格を取得
地元トナーで家具職人としての経験を積み、その後コペンハーゲンに移りヤコブセン事務所へ
数年しか在籍しなかったが、このときにオーフス庁舎の家具デザインを担当した
生涯で500個もの椅子を生み出し、「椅子の神様」とも呼ばれる代表作:「Yチェア(CH24)」 「チャイナチェア(FH4283)」
アントチェア
(1952年 フリッツハンセン)
デンマークの巨匠、アルネ・ヤコブセンによるデザイン
世界で初めて背面と座面が一体化した3次元曲面を実現した名作
ヤコブセン自身が設計した製薬会社(ノボ・ノルディスク社)の食堂で使用するためにデザインした
丸い背もたれの腰部分でキュッと絞られたラインと細長い脚。まるで蟻のような形を描くこの椅子は「アリンコチェア」という愛称でも呼ばれています。
座面は薄板7層と仕上がり板2層の9層で構成される成型合板で生産。
外側を仕上げ板で挟み、3枚目を横目、中央を縦目使いに作られた椅子は、軽やかな見た目ながら強度が高いのです。
オリジナルのデザインは3本脚でした。ヤコブセンの死後、安全性を考慮し4本脚も作られるようになりました。
3本脚のアントチェアは、人が座ることによって完成されるそう。3本の脚と2本の足の5点で支えるということですね。
ただ座るとわかりますが、体勢を変えて重心の移動をするとぐらっとしたり、背もたれに体重をかけるとそのまま後ろに倒れそうになります。落ち着いて腰掛けたい場合は4本脚のほうがおすすめです。
とはいえ3本脚は、座る際やテーブルなどに収納するときに脚が邪魔にならず、重ねるのも楽です。3本脚だからこそのシンプルな美しさ、そして何よりヤコブセンオリジナルのデザインです。座るのが不安という場合は観賞用とするのもいいかもしれません。またはちょっとしたかわいい小物や雑貨の置き場などにもできそうです。
日常で使用するのは4本脚、観賞用や何かを座面において飾る場合は3本脚、など用途で使い分けるのもいいかもしれません。購入する際にはメリットデメリットを考えても、3本脚か4本脚か悩むところですね。
アルネ・ヤコブセン
デンマークのコペンハーゲン出身。1927年にデンマーク王立芸術アカデミーを卒業
1929年には「未来の家」を発表し、建築家として名を馳せる
海水浴場や集合住宅、ホテルの設計だけにとどまらず、照明のような小さな家具などすべてをデザインするトータルデザインを手掛ける代表作:「エッグチェア」「ベラヴィスタ集合住宅」「デンマーク国立銀行」